屋久島

人生と映画 屋久島編

潮の香り

眩しさで目が覚めた。玄関の窓から入る、陽の光に部屋全体が煌々と白い。風呂に浸かり、この旅の目的を反芻する。「縄文杉に逢いにゆく」はっきりと言葉にして呟いた。

玄関のドアを開けると今日が昨日の続きだと示し合せるように、日は高く地面を熱していた。今日も暑いなと襟を仰ぎ、胸元に生温い風を送る。鍵を番台に返し、宿を後にする。8時55分の飛行機で屋久島へと発つ予定であり、時間は十分にあった。レンタカーを返却し、空港まで送迎してもらう。空港内は閑散としており、搭乗前の荷物預けブースには数えるほどしか人は居なかった。

鹿児島から屋久島までは飛行機で移動し、屋久島に到着後、タクシーに乗り荒川登山口まで移動する予定であった。待合室で何をするわけでもなく人々の往来を眺める。短パンにサンダル姿のキャリーバッグを引いた集団が、屋久島からの到着エリアから現れた。目の前を闊歩していく彼等を見送ると、潮の香りがした気がした。

いつかに観た映画

バックパックを預け、搭乗手続きを済ませる。案内に従い、搭乗エリアでチケットのバーコードを読み込ませる。通路を進むとバスが待っていた。鹿児島-屋久島間の航路は、1日数便小型のプロペラ機が上空を往来している。バスは例のプロペラ機の鼻先に停車し、運転手は乗客が降りる度に丁寧に頭を下げていた。10段程のタラップを登り機内へ乗り込む。屋久島まで30分程度で到着する節がアナウンスされ、窓の景色がゆっくりと動いた。身体を座席に預け目を閉じていると、一瞬フワッとお尻が浮く。窓を覗き込むと眼下に島と海の境目が見えた。自分が今何処にいるのか分からなくなり、もう一度頭の中で、自宅の玄関のドアを開け、ここまで来た道のりを辿る。随分遠くへ来てしまったなと一瞬くらくらした。15年前、縄文杉が登場する映画に魅せられ”死ぬまでにこの目で見てみたい”と夢見たそれへ今向かっている。人生は1つの映画で変わってしまうほどに、実はずっと側にあるのかもしれない。

着陸した機体は姿勢を保とうと左右にぶわわと揺れた。タラップを降りると目の前に”yakushima”と書かれた小さな空港が見えた。屋久島空港は思っていたよりもずっと小さかった。ベルトコンベアーがないため”荷物受け取り場”へ係員が一つずつ重い荷物を抱えて持ってくる。丁寧に床に置かれたバックパックを背負い、空港内を見回すと、トレッキングシューズにバックパックという身なりの女性が数名いる。彼女らも縄文杉を見に来たのだろうかと思うと、人生のどこかに共通点があるような気がした。

空港前からタクシーに乗り込み、荒川登山口まで移動する。途中、フェンスで入場規制のかかっている通路をタクシーの運転手が鍵を開けて通過する。本格的に緑が生い茂る山道へ差し掛かったとき、タクシーは大きくブレーキを踏んだ。「さる。」運転手は窓の外を眺めながら呟いた。運転手の視線の先に5匹の猿が道端に群れていた。逃げるわけでもなく、とぼけた顔をした猿は、こちらを横目に毛繕いをし合っている。彼らを横切り、ここが屋久島であることを改めて実感した。

40分も走ると、荒川登山口へ到着した。時刻は11時前であり、まだ日は高く、じりじりと蝉が鳴いている。「あの橋を渡って、あとは道なりに行けばいいから。頑張ってな。」遠くに見える橋を指差し、タクシーの運転手が励ましてくれた。お礼を言うと、タクシーの運転手は振り返ることなく、今来た道をゆっくり戻って行った。

スタート地点

「上で泊まるの?」バスが一台停まっており、おそらくその運転手と思われるランニングシャツ姿の、年配の男性から声を掛けられた。そうです、と答えると「そうか、暑いな。」と笑いながら汗を拭っていた。橋に向かおうと少し歩くと、トロッコ道が見えた。荒川登山口から縄文杉までの道のりは11㎞、そしてこのトロッコ道が8㎞続いており、残りの3㎞は山道となっている。カツッ、カツッ、底の硬い靴と線路に敷かれたの木の板が、歩くと小気味良い音を響かせた。口元が緩む、茹だる暑さの中、ひとり、嬉しさを隠しきれずに縄文杉に向かい歩き始めた。

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